世界構造仮説⑦ ― 刻んだ約束

世界構造と消された歴史

大地を失った者たちは、海へ出た。

<B-8>


ジョイボーイは、生きていた。

わずかな仲間とともに、 船で難を逃れていた。


苦渋の選択だった。

大地族にとって、大地は生活そのものだ。 その大地を捨て、海に活路を求める。

それがどれほどの決断だったか。

崩れる大地

……だが、他に道はなかった。


果てしなく広がってしまった海に、 あの自由で広大な大地を求めて——。

これが、のちの原初の海賊となる。


しかし海の上から見える世界は、 かつての世界とは違っていた。

ウラヌスが削った大地の跡は、 想像をはるかに超えていた。

広大だったはずの大地が、消えている。 かわりにできた海原は、果てしなく続いている。

水平線の先が、どこまでも見えなかった。


荒れ狂う嵐、照り続ける太陽、テリトリーを侵され襲いかかる海王類。

慣れ親しんだ大地とは全く違う日常に、戸惑いの連続だったが、
疲労や恐怖より少しづつ好奇心が上回り、
悪戦苦闘しながらも、冒険を楽しむ日々に。


……長い航海ののちに、 ジョイボーイの一行は「ある小さな島」にたどり着く。


そこは、月の民が密かに月へ還る準備を進めていた場所だった。

ウラヌスの攻撃から逃れた、高度な文明の灯火。
わずかではあるが、帰還派の人々と機械が残っていた。

幹部達から伝えられたメッセージ、
かすかに覚えていた最後の砦。

なかには懐かしい顔も……、再会を喜んだ。


だが、ジョイボーイの心は晴れなかった。

巨人族と海王族との、約束を守れなかった。
月の民の仲間たちを、守れなかった。
大地族の大地を、……守れなかった。

その事実が、重くのしかかっていた。


いつか、必ず。

巨人族へ。海王族へ。 果たせなかった約束への、謝罪と誓いを——。

いつの日か。

遥かなる大地と自由を求める者が現れる。

月の民を月へ還すという約束を果たす者が現れる。

その時のために。

この島への道しるべと、忘れてはならない真実を——。

仲間たちとともに、残りの力をしぼり出し……

石に刻んだ

刻んだ約束

……刻み終えた頃、 エメトはジョイボーイのそばに立っていた。

月の民の機械兵。

ともに戦い、ともに海に出た戦友。

お互いに生命の灯火は、もう尽きようとしていた。


ジョイボーイは、残り少ない自らの力をメッセージにかえて、

エメトに託した。

未来の意思を受け継ぎし者へ

その希望を、届けてくれ。

その後の彼を見た者は、いない……。


勝利を手にした支配派の指導者は、 世界の再構築に着手した。

支配派が築いたいくつかの王国。 そして、力の加護を求めて従った近隣の王国。

その中から、20人の王が集まり、 新たな秩序のもとに署名した。

世界政府——。

最初の20人

20人の王による、新たな世界の設計図。 崩壊しかけた世界を維持するための機関。

しかしその本当の顔は……支配のための檻であった。


だが指導者には、もう一つやるべきことがあった。

あと一歩まで追い込まれた、あの恐怖。

大地族の力。 恐竜たちの咆哮。 ジョイボーイという存在。

その記憶が、消えなかった。


恐怖の再来に、フタを閉じなければならない。

あの戦いを生き延びた者を探し出す。
真実を知る者の口を封じる。
残る痕跡を、歴史ごと消し去る。


こうして、歴史が消された。

ちょうど——100年分だけ。


これがいわゆる「空白の100年」の正体なのでは、 ないだろうか……。

世界構造仮説編【完】

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―参考資料―

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